死海写本の研究の歴史。結論的に言えば一般人にはなんの謎もない死海写本
聖書には興味はあるが、聖書学まではちょっと。。。という僕にはかなり荷の重い本であった。死海文書については、いろいろなメディアで興味をかきたてられていたので、一体全体どんな謎があって、どう解き明かされたのかが面白そうで買ったのだけれど、結論として、一般人にとっては、まあ、こういってはなんですが、なんの謎もなければ、なんにも解き明かされていないということです。
これは、実際にこの本の最終章にもそのような旨のことが書かれていますから、決して僕個人の理解の浅さだけから来た感想ではないですよ。
むしろ、この本の正確なタイトルは「死海写本の研究の歴史」でしかるべきで、だから、そういう意味で中味が読めないAmazon.co.jpで購入するような人には、タイトルが正確でないということで星3つにさせていただきます。
でも、本当に死海写本がどうやって見つかって、どんな学者がどんな(一般人にはどうでもいいように見える)些細なことに議論を費やしたかを、真剣に学ぼうと思われている方には、うまくまとまっているのではないかと思います。
好感の持てる研究序説
学問を生業にして広く名を売りたければ、誰も言っていない極端な学説を唱えるのが最短です。学界での評価は地に落ちるかもしれませんが、メディアと手を結んで矢継ぎ早に本を出し、自説を流布することで、世間での評判は大学者のそれになります。死海文書をめぐる研究の世界もその例に漏れません。いくつかの本が世界中でベストセラーとなったようですが、商業的な成功は学問的な成功と決して等価ではありません。真面目な学者は、諸説を総合的に検討し、彼の考える最良の説を提示するものです。この意味では、本書の著者クック氏はきわめて誠実な研究者といえるでしょう。限られた情報から「真実」を安直に推論することを避け、諸説を丁寧に検討し、それぞれの問題点を指摘していきます。言ってみれば彼のここでの仕事は、先行する議論の紹介と仕切り直しであり、「真実」は留保されます。これに一部の読者はがっかりするかもしれませんが、安易な結論は導けない、謎が謎として依然残ってしまうという点にこそ、死海文書の面白さがあるのだと思います。世界の優秀な学者たちが、今後どのような道を模索するのか非常に気になるところです。 最後に、翻訳について一点。前半部では、「熱心党」とある語が、後半部では「ゼーロータイ」と表記されていました。これは訳語の明らかな不統一であり、監訳者は他の訳書の問題点を指摘する前に、これを修正する義務があったでしょう。
死海写本(死海文書)の最新の研究成果
死海写本(死海文書)の最新の研究成果を踏まえたうえでの良い研究書です。死海写本について興味を持つ人が最初に読む本として良いでしょう。比較的コンパクトに多くの情報がまとめられています。 死海写本(クムラン写本)についてはさまざまな憶測や勝手な主張、さらにはトンデモな主張すらされますが、あまり勝手な主張に惑わされないためにも、最新の研究内容との比較が必要です。
教文館
原典 ユダの福音書 ナグ・ハマディ写本―初期キリスト教の正統と異端
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